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横浜地方裁判所 昭和26年(ワ)407号・昭26年(ワ)697号 判決

債権者東京石炭協同組合債務者配炭公団間の東京地方裁判所昭和二十五年(ヨ)第四八四四号動産仮処分命令申請事件の仮処分命令に基き、昭和二十五年十二月二十九日別紙目録<省略>記載の石炭に対しなした仮処分執行は許さない。

原告伊藤ふじみのその余の請求は棄却する。

反訴請求は棄却する。

訴訟費用は被告(反訴原告)の負担とする。

本件につき東京地方裁判所が昭和二十六年三月二十六日なした仮処分執行取消の決定は認可する。

前項は仮に執行することができる。

二、事  実

原告等(反訴被告伊藤ふじみ)訴訟代理人は、

本訴の請求趣旨として、

「一、債権者東京石炭協同組合、債務者配炭公団間の東京地方裁判所昭和二十五年(ヨ)第四八四四号動産仮処分命令申請事件の仮処分命令に基き、昭和二十五年十二月二十九日別紙目録記載の石炭に対してなした仮処分執行は許さない。

二、被告は原告伊藤ふじみに対し金一万六千円およびこれに対する昭和二十七年二月二十一日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

三、訴訟費用は被告の負担とする。」

との判決竝に金員支払ひの点につき仮執行の宣言を求め、

反訴請求につき、

請求棄却の判決を求め、

本訴の請求原因竝に反訴請求原因に対する答弁として、

第一、(一) 被告は訴外配炭公団に対し、東京地方裁判所に動産仮処分命令の申請(昭和二十五年(ヨ)第四八四四号)をなし、昭和二十五年十二月二十六日付の仮処分命令に基き、横浜地方裁判所所属執行吏坪井貢をして、同年同月二十九日別紙目録記載の物件(以下単に本件物件という)を同執行吏に保管せしめる旨の執行をなさしめた。

(二) (イ) しかし本件物件を含む石炭三千六百六十八屯は元配炭公団の所有であつたところ、昭和二十五年三月十八日訴外株式会社筒井商店に売却し、同商店はその所有権を取得し、同年同月二十三日引渡を受けた。

尚右売買契約は、公団の代理人である伊藤賤夫と右訴外会社の代表取締役筒井邦平との間になされたものであつて、当時右石炭は、訴外猿橋伸吾が配炭公団の為日本電気株式会社玉川事業部構内において保管していたので、訴外株式会社筒井商店は配炭公団の代理人である右伊藤賤夫の指図により引渡を受けたのである。

(ロ) 右訴外会社の代表者筒井邦平は同年四月十一日前項の物件を原告伊藤ふじみに売渡し、同人はその所有権を取得し翌十二日訴外会社の占有代理人猿橋伸吾より前記保管現場において、現実に右石炭の引渡を受けたのである。

(ハ) 原告伊藤ふじみは、右石炭を次のように他の原告等に売却し、同人等はその所有権を取得し、即日現場において原告伊藤ふじみから引渡を受けた。

売渡日       相手方   売却量   単価

昭和二十五年十一月十日 山上徳雄  二〇〇屯 一、七〇〇円

同年同月二十四日    飯坂良英  一〇〇屯 一、四〇〇円

同年十二月二日     柴山健二郎 一〇〇屯 一、五〇〇円

同年同月五日      藤井金作  一五〇屯 一、七〇〇円

同年同月十日      佐野徳治  一五〇屯 一、七〇〇円

同年同月七日      土屋菊太郎 三〇〇屯 一、七〇〇円

(ニ) 従つて本件物件は原告等の所有に属するから、訴外配炭公団に対する仮処分執行としてなされた前記処分は原告等に対し、不法である。よつて原告等は本件仮処分執行の不許を求めるため、本訴請求に及んだのである。

第二、昭和二十五年十二月十九日被告組合の理事である山本正一、仲田繁等は本件物件の貯炭現場より、実力を以て原告伊藤ふじみ所有の石炭八屯時価一万六千円のものを他に持運び右石炭が原告伊藤ふじみの物であることを知りながらその占有を奪ひ、その後遂ひにその追及をなすことを出来なくしたものであつて、結局原告ふじみは右石炭の所有権を失い、右同額の損害を蒙つたものである。

因つて原告伊藤ふじみは、右不法行為に基き被告に対し右金一万六千円及びこれに対する本件準備手続期日にこの請求をした翌日である昭和二十七年二月二十一日以降完済まで年五分の割合による損害金の支払を求めるものである。

第三、反訴請求原因中

反訴原告主張の石炭をその主張の頃他に搬出し、これが追求を不能ならしめたこと及び右石炭の時価が反訴原告主張のようであることは認めるが、その他の原告主張の事実は前述の通り述べたものの外は全部否認する。

と述べ、

被告(反訴原告)訴訟代理人は、

本訴について、

請求棄却の判決を求め、

反訴の請求趣旨として、

一、反訴被告伊藤ふじみは反訴原告に対し、金二百万円を支払え。

二、訴訟費用は反訴被告の負担とする。」

との判決並に仮執行の宣言を求め、

右訴請求原因に対する答弁として、

第一、の(一)の事実は認める。

第一、の(二)の(イ)の事実中本件物件を含む石炭三千六十八屯が元配炭公団の所有であつたことは認めるが、その他の主張事実は否認する。

第一、の(二)の(ロ)の事実は否認する。

第一、の(二)の(ハ)の事実は知らない。

第一、の(二)の(ニ)の事実は否認する。

第二の事実は否認する。

本訴請求原因に対する抗弁として、

(一)  原告等より本件仮処分執行異議の訴を提起するとともに、民事訴訟法第五百四十七条第五百四十九条の規定により右執行取消の申立をなしたため、昭和二十六年三月二十六日右執行処分を取消す旨の決定がなされ、その結果本件石炭に対する右執行は取消され、その後右石炭は滅失して現在存在しないから、本件請求の趣旨第一項は訴の利益を欠く。

(二)  訴外配炭公団の代理人である伊藤賤夫は、右公団の職員であるとともに原告伊藤ふじみの夫であつて、本件石炭を伊藤ふじみに取得せしめる目的をもつて、訴外配炭公団と訴外株式会社筒井商店との間に本件売買契約を成立せしめたものであるから、右売買契約は配炭公団法第十三条に違反し無効である。仮りに右配炭公団法第十三条の規定が効力規定でないとするも、これに違反した右行為は民法第九十条に違反し無効である。

(三)  訴外配炭公団と株式会社筒井商店との間の取引竝に株式会社筒井商店と原告伊藤ふじみとの間の取引については、伊藤賤夫がそれぞれ売主及び買主を代理してなしたものであつて、いづれも右取引行為は民法第百八条に違反し無効である。

反訴請求原因として、

第一、配炭公団は、本件物件を含む石炭三千六十八屯を有していたところ、昭和二十五年十二月十五日右石炭の中千五百四十八屯を反訴原告及び訴外株式会社筒井商店に売却し、同年同月十七日頃引渡を了したものである。

第二、昭和二十六年一月十三日訴外株式会社筒井商店は反訴原告に対し、前記石炭千五百四十八屯の持分の一部を譲渡し、反訴原告の持分は二、訴訟会社の持分は一の割合となつたものである。

第三、反訴被告伊藤ふじみは、昭和二十六年三月二十七日右石炭をその保管場所である日本電気株式会社玉川事業所構内より搬出し、これを追求すること能わざらしめたものである。

第四、右石炭の昭和二十六年三月二十七日当時の時価は一屯当り金二千円であるから、反訴原告は右反訴被告の行為により金二百六万四千円の損害を蒙つたものである。よつて反訴原告は反訴被告伊藤ふじみに対し、右金員中金二百万円の損害賠償を求めるものである。

と述べ、

原告等(反訴被告伊藤ふじみ)訴訟代理人は、

被告(反訴原告)の抗弁に対し、

本件石炭が被告主張のように仮処分取消処分執行取消処分の結果解放せられ現に滅失して現在存在しないこと、伊藤賤夫が原告(反訴被告)伊藤ふじみの夫であること竝に伊藤賤夫が右伊藤ふじみに本件石炭を取得せしめる目的をもつて、先づ配炭公団の代理人として訴外株式会社筒井商店と売買契約をしたことは認めるけれども、本件石炭は粗悪炭であつて、これを買受ける者がなかつた関係上伊藤賤夫は同人の妻伊藤ふじみに販売し、処理せしめる目的をもつて、本件取引をなした次第であつて、殊に販売価格については、本部の認可を受け、先づ訴外株式会社筒井商店に売渡したのであつて、その精神において何等配炭公団法第十三条に違反するところなく、右取引行為は有効である。

その他の抗弁事実は全部否認する。

と述べた。

<立証省略>

三、理  由

先づ本訴について判断する。

第一、執行異議の請求について、

被告が訴外配炭公団に対し、東京地方裁判所に動産仮処分申請(昭和二十五年(ヨ)第四八四四号)をなし、昭和二十五年十二月二十六日付の仮処分命令に基き、横浜地方裁判所所属執行吏坪井貢をして、同年同月二十九日本件物件を同執行吏に保管せしめる旨の執行をなさしめたことは当事者間争ひないところである。原告等は本件物件は原告等の所有に属するから、右配炭公団に対する仮処分命令により執行せらるべきものでない旨主張するから、この点につき審査するに証人仙波敏威の証言により真正に成立したことを認めうる甲第五号証、証人伊藤賤夫(第一回)の証言により真正に成立したことを認めうる甲第五号証、証人伊藤賤夫(第一回)の証言により真正に成立したことを認めうる同第六号証、同証言により真正に成立したことを認めうる同第八号証、同第九、十号証の各一、二、同第十一号証原告本人伊藤ふじみ(第一回)の陳述により真正に成立したことを認めうる甲第十三号証前記証人伊藤賤夫の証言により真正に成立したことを認めうる同第十四号証の一乃至三、同証言及び前記原告本人伊藤ふじみの陳述により真正に成立したことを認めうる同第十五乃至二十号証、右原告本人伊藤ふじみの陳述により真正に成立したことを認めうる同第二十一号証成立に争ひのない同第二十二号証の一、二前記証人仙波敏威の証言により真正に成立したことを認めうる同第二十三、二十四号証成立に争いのない同第二十七、二十八、二十九号証証人山本正一の証言により真正に成立したことを認めうる乙第一、二、三号証同第七号証竝に証人仙波敏威、板倉啓佑、猿橋伸吾(第一、二回)伊藤賤夫(第一、二回)筒井邦平、大口英一、山本正一、仲田繁、榊原明、北田英二、松本栄一、新実武夫、水井直栄、渋谷与蔵の各証言及び原告本人伊藤ふじみ(第一、二回)の陳述を綜合すると、配炭公団は本件石炭を含む石炭三千六十八屯を所有し、これを訴外猿橋伸吾をして日本電気株式会社玉川事業部構内において保管せしめていたところ、右配炭公団東京支部横浜支所長である伊藤賤夫はその妻である原告伊藤ふじみをして右石炭を買取らしめることにしたが自己が右公団職員である関係上直接公団と原告伊藤ふじみとの間に売買契約を締結せしめるときは、徒らに世間の疑惑を招くことをおそれ訴外株式会社筒井商店の代表取締役筒井邦平の諒解を得た上、昭和二十五年三月十八日公団を代理して右石炭を金四十七万九千五百円にて右株式会社筒井商店の代表者である取締役筒井邦平に売渡し、同会社は同年三月二十三日配炭公団の代理人である右伊藤賤夫より占有代理人である前記猿橋伸吾に対する指図により引渡を受けた。同年四月十一日右訴外会社の代表者である右筒井邦平は原告伊藤ふじみからプレミアムとして金三万円の支払を受け前記公団より買受けた同価格を以て、同人に売渡し、同人はその頃訴外会社の占有代理人である前記猿橋伸吾より前記保管場所において、現実に右石炭の引渡を受けたが、その後原告等主張のようにその他の原告等と売買契約をなし、その頃保管現場において引渡をなした。ところが昭和二十五年三月三十一日配炭公団は被告に同日現在における東京支部管内貯炭の帳簿面全数量を貯炭最終処分価格裁定委員会の決定した価格を以て売渡す旨約し、同日現在における東京支部帳簿面には本件石炭を除外してないため、被告は本件石炭の引渡を迫つたところ、同公団は本件石炭が既に訴外株式会社筒井商店に販売せられあること判明したが、右石炭が原告伊藤ふじみに販売せられあることを知らなかつたため、株式会社筒井商店に種々交渉の結果同会社との売買契約解除の承諾を得昭和二十五年十二月頃改めて右石炭の内千五百四十八屯を被告に残余を株式会社筒井商店に売渡す旨約したが、現場には約千五百屯余しか存在したに過ぎず、しかも引渡がなかつた事実を認めうべく、右認定に反する甲第二十六号証、同二十八号証の記載、証人筒井邦平の証言は信用しない。その他右認定を覆へすに足る証拠はない。しかして配炭公団と株式会社筒井商店、同会社と原告伊藤ふじみ、同原告とその他の原告との間の各売買契約はいづれも特定物を目的とするものであるから、反証なき限り売買契約と同時にその所有権が各買主に移転したものというべきである。よつて被告の抗弁につき案ずるに、

(一)  原告等より本件仮処分の執行異議の訴を提起するとともに、右執行取消の申立をなしたため、執行処分取消の決定がなされその結果本件石炭に対する執行処分が取消され、その後右石炭が滅失したことは当事者間争いないところであるけれども、民事訴訟法第五百四十七条第五百四十九条は異議の訴を提出した債務者は第三者の利益を保護するため、本案判決以前において、仮りに一時その執行を停止し、更に進んではその執行処分の取消をも許した規定で、右処分は仮定的なものに過ぎないから、執行取消処分の結果その目的物が滅失したとしても、この事実は斟酌することなく本案の判断をすべきものと解するを相当とする。抗弁は理由がない。

(二)  配炭公団法第十三条の「同公団職員は石炭の生産販売加工に利害の関係を持つてはならない」旨の規定は配炭公団の公共性に鑑み、同公団職員の職務執行の公正を期するため設けられた訓示的規定と解すべく、右規定に違反してなした公団職員の取引行為はこれを無効ということを得ない。又右規定に違反してなした法律行為も直ちにこれを公序良俗に違反するものというを得ない。

(三)  配炭公団と株式会社筒井商店との間の取引竝に株式会社筒井商店と原告伊藤ふじみとの間の取引について伊藤賤夫が、それぞれ売主及び買主を代理してなしたものでないこと前認定により明かであるから、この点に関する被告の抗弁も理由がない。

しからば原告等が本件物件の所有権を異議事由として、前記仮処分命令の執行処分の排除を求める本訴請求は正当である。

第二損害賠償請求について、

前示甲第二十二号証の一、二証人猿橋伸吾(第一回)の証言により真正に成立したと認める甲第三十四号証ならびに証人猿橋伸吾(第一回)高橋勇、榊原明、高橋富一の各証言を綜合すると、昭和二十五年十二月十九日被告組合の理事である山本正一、仲田繁等が前記貯炭現場に本件石炭の引取に趣いたところ、原告伊藤ふじみは当初右石炭の引渡を肯じなかつたが、現場に居合せた猿橋伸吾の取なしにより結局トラツク二台分の石炭の引渡を承認した事実が明かで結局被告が本件石炭の占有を侵奪したものでないこと明かであるから、右占有侵奪を原因とする原告の損害賠償の請求は理由がない。

次に反訴請求について審査する。

前記本訴第一に説明したように本件物件が原告の所有であること明かであるから、これを原告において処分するも不法なりとはいひ難い。従つて本件物件が被告の所有であることを前提とする反訴損害賠償の請求は理由がない。

従つて原告の本訴請求中異議の請求のみを正当として是認しその余の原告の請求及び反訴請求を理由がないものとして棄却し、民事訴訟法第八十九条、第九十二条、第五百四十九条、第五百四十七条、第五百四十八条を適用し、主文のとをり判決した。

(裁判官 牧野威夫)

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